2025-12-26
記者:
日本と比べて、欧米市場では資産運用のやり方にどのような違いが見られますか?
吉岡社長:
欧米の成熟した市場では、「人の判断にはシステムによる支援が必要である」という認識が、日本よりも早い段階で共有されてきました。大手ファンド会社や金融機関では、システム化されたAI駆動型の取引・資産運用プラットフォームを、資産配分や流動性管理、リスク管理のためのインフラとして位置づけるのが一般的です。これは短期的な予測を目的としたものではなく、規律ある運用とリスク分散を通じて、全体の運用安定性を高めるための取り組みです。

記者:
現在、市場には個人投資家向けのAIツールも数多く登場していますが、これはAIがすでに十分成熟していることを意味するのでしょうか。
吉岡社長:
私は「一般的なAIツール」と「機関投資家向けのAI取引システム」は分けて考える必要があると思っています。一般的なAIは、情報の整理や分析を補助する点では一定の価値がありますが、多くは単一モデルや限られたデータに基づいており、包括的なリスク管理や動的な調整能力に欠けています。投資家がそれを補助ではなく判断の代替として使ってしまうと、市場環境が変化した際に、かえってリスクを拡大させてしまう可能性があります。
記者:
このような背景の中で、SMBC日興証券とSBI証券が共同で推進しているAI金融プロジェクトは、現在どのような進捗状況でしょうか。
吉岡社長:
AI金融プロジェクトは、両社が共同で位置づけている中長期的な戦略の柱であり、北尾吉孝社長、大島達社長の双方からも非常に高い関心と重視が寄せられています。関連システムは2023年4月より、実際の投資市場環境の中で段階的に稼働を開始しており、現在は主に一部の中、高水準の資産をお持ちのお客さま向けに提供しながら、実運用を通じた検証と最適化を継続しています。
プロジェクトの推進にあたっては、佐藤一夫氏や中村良一氏をはじめとするAI金融プロジェクト関連の責任者が、データ、システム、投資運用といったそれぞれの分野から支援に関わっています。この段階では、さまざまな市場環境下におけるシステムの実行一貫性やリスク特性、安定性を特に重視しており、AIを金融分野で実用的に活用するための能力を段階的に磨き上げているところです。
記者:
今後、より明確なスケジュールはありますか?
吉岡社長:
これまでの取り組みで得られた知見を踏まえ、2026年第一四半期を目途に、プロジェクトの次のフェーズへ進めていく予定です。また、条件を満たすお客様を対象に、改めて参加募集を行いたいと考えています。
私たちにとっては、スピードよりもペースと安定性を重視することが何より重要です。
記者:
この機関投資家向けAIプロジェクトは、将来的にすべての市場投資家へ公開される予定はありますか?
吉岡社長:
現段階では予定しておりません。
率直に申し上げますと、機関投資家向けのAI取引システムには、キャパシティやコスト面で現実的な制約がございます。
こうしたシステムは、高度な計算能力や高速な執行体制、厳格なリスク管理フレームワークを前提としており、運用・維持にかかるコストも高く、専門的な管理及び監視体制が不可欠です。
そのため、現時点で一般の個人投資家の方々に広く開放することは適切ではないと考えております。私どもとしては、十分な理解と対応力をお持ちの方々を対象に、管理可能な範囲で段階的に取り組みを進めていく方針です。
今後については、さまざまな形の可能性を継続的に検討してまいりますが、当社にとっては規模の拡大よりも、あくまで安定的な運用とリスク管理を最優先としております。
(結び)グローバルな資産運用の手法が進化を続ける中で、資産投資分野におけるAIの高度化は、日本市場に新たな視点をもたらしています。今後の展開に注目していきたいところです。