時間外労働「100時間」したのに公式記録は「40時間」…医師の働き方改革を骨抜きにする「制度」の実態

2024-11-13 HaiPress

医師の当直を労働時間から除外できる「宿日直許可」という制度を取得する医療機関が急増している。今年4月から上限が設けられた労働時間規制の抜け道に使われているためだ。本来なら宿日直中の時間は軽度な業務しかできないのに、重症患者の処置に追われるなど、現場の実態は大きく異なる。(竹谷直子)

◆「たまたま具合の悪い人が来たという扱い」

「働き方改革が始まっても労働時間に何の変化もない」。地域医療の中核を担う千葉県流山市の東葛病院の土谷良樹内科部長(49)は、こう打ち明ける。

医師の働き方改革の問題点を指摘する土谷良樹医師=千葉県流山市で

当直は、月4~5回。1回当たり、平均20人ほどが来院し、救急車も5~6台来る。約300人の入院患者の急変にも対応する。土谷さんの当直を含めた時間外労働は毎月、過労死ラインを超える100時間程度。だが、同病院が宿日直許可を取得しているため当直時間は除外され、時間外労働となるのは約40時間だ。

土谷さんは「宿直は、たまたま休憩中に具合の悪い人が来て人道的に対応したという扱いになっている」と指摘。「数字上は時間外労働が減るので、改革しなくてもしたことになっている」と説明する。

◆「宿日直許可」が上限規制前の36倍

医師の時間外労働は4月から、地域医療の確保などの目的があれば特例で過労死ラインの約2倍の年1860時間となった。特例が認められた医療機関には、終業から始業までに一定の休息時間を設ける「勤務間インターバル」の導入が義務付けられた。だが、宿日直許可を取れば当直の時間を休息に含められ、機能していない。

医師の宿日直許可件数の推移

2020年に144だった宿日直許可の件数は、労働時間が規制される直前の2023年に5173件と3年で約36倍となった。厚生労働省の担当者は「規制を前に導入が広がった」とする。同省は規制前に宿日直許可の解説や相談などを行っており、急増の一因となった。

◆「医療体制整えずに現場に押しつけ」

日本医療労働組合連合会の森田進中央副執行委員長は「宿日直許可の申請は全国的な傾向で、(規制前の)駆け込みで申請している」とみる。「先進諸国の中でも日本は人口当たりの医師数が極端に少なく、医師数が全都道府県で足りていない」と話す。

土谷さんも「(他の病院で)若い医師が最近も亡くなっていると聞いている。夜間の救急医療態勢を整えるのは国の責任だが、それをやらずに現場に押しつけている」と訴えた。

医師の宿日直許可労働基準監督署長が医療機関に出す宿日直の許可で、1949年に基準が定められた。宿日直の時間帯の多くが仮眠など業務をする必要がないことを想定し、許可があれば労働時間に含めないようにできる。宿日直中であっても、短時間の問診や看護師らへの指示は軽度の業務として、認められている。許可を一度取れば更新はいらない。

◆死をしばしば考える20代医師が14%

厚生労働省の2022年調査によると、常勤勤務医の約2割の時間外労働が年960時間を超えていた。月平均80時間の過労死ラインを上回ることを意味する。

同年5月には、神戸市東灘区の病院「甲南医療センター」の医師高島晨伍(しんご)さん=当時(26)=がうつ病を発症して自殺。死亡直前の1カ月間の時間外労働は207時間を超え、約100日間の連続勤務があったとして、労災認定された。

同年の勤務医労働実態調査では、死や自殺について、「1日に何回か」「1週間に数回」考えると答えた勤務医が20代で14%に上った。また、医師の8割以上が、長時間労働は医療過誤の原因に関係していると回答している。

◆人口減少で医学部定員も「適正化」検討

経済協力開発機構(OECD)によると、日本の医師数は、人口1000人当たり2.65人(2022年)と、OECDの中でも最低水準で、先進7カ国(G7)でも最下位だ。

しかし厚労省は、人口減少に伴って医師需要が減少局面となるとし、2027年度以降の医学部定員の適正化の検討を進めている。臨床研修医の募集定員上限数の設定や、専攻医の採用上限数の設定などを検討している。

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